『チャイ夢』
作者:岩館真理子 掲載:「週刊マーガレット」昭和55年1号〜13号
『チャイ夢』は「ちゃいむ」と読みます。 「鐘」の意味と掛け合わせているんだと思います。
岩館さんの作品を最初に読んだのは、小学生の頃、美容院でです(笑)。 単行本で、『17年目』という、義理のお兄さんを好きな主人公の女の子の お話です。でもそのお兄さんは、同じく義理のきょうだいである、 主人公のお姉さんのことが好きで・・・という、なんか切ないお話でした。 美容院という限られた時間の中で読んだので(笑)、サラッとしか 読めなかったんですが、なんだか切なさのあまり、最後まで読み進めずに 美容院を出て、そのまま・・・・となっていると思うんですが、 もしかしたら最後まで読んだのかもしれません。 (この作品以外の初期の単行本は、その後買い込んでいったので、 ほとんど持っていると思います)
その次に岩館さんの作品に出会ったのは、歯医者さんです(笑)。 『森子物語』という、2巻に渡る連載物なんですけど、こちらは『17年目』 よりかなりあとの作品だし、年代的なものもあって、かなりポエム調と いうか、心象物語になっています。 ギャグなんかもあるんですけど、けっこうシビアなシーンも多くて、 でも「森子には夢がある。それは数年後にかなうことになっている」という 出だしが印象的で、すごく共感を持った一言でした。 私も・・・森子のように、数年後、何かが変わる、変わってほしい、 と思った・・・いえいえ、思っている時期が、いまだに何回もあるんです。
そんな感じで、岩館さんというと、初期は「マーガレット」らしい可愛い絵柄 で、中期(?)は絵柄も時代にあわせて変化していって、シビアな 心象風景を描く人・・・というイメージを持っています。
でも、他の作品になかなか出会うチャンスがない・・・と思っていたら、 ある日、例のごとく、本棚の奥に見つけたのです(笑)。 『グリーンハウスはどこですか?』と『チャイ夢』を。
『グリーンハウスはどこですか?』もとても気に入っているお話です。 どちらかというと、私はこっちの作品のほうが素直に読めるんですけど、 『チャイ夢』の主人公の心境には、色々な箇所で自分の日常や心理と 重なるところがあって、捨てがたいのです。 というわけで、『グリーンハウス・・・』についてはまたいつか書くとして、 今回は『チャイ夢』を取り上げさせていただきます。
大学生の桃子は、いつもクールぶった、少し影のある強がりな女の子。 そんな彼女は、クリスマスイブに、家賃滞納で大屋さんからアパートを 引き払わされてしまいます(本当は大家さん自身はいい人なんですが、 大家さんの娘夫婦が厳しい人たちだったのです)。
親友2人にも連絡が取れず、ひいてる風邪もひどくなり、雪の降る中、 ホテルのロビーすら入れず、荷物を持ったまま、 路頭に迷ってしまいます。 幼いころにやっていた100円玉のおまじないなどしながら、ベンチに 座り込んでいます。 そこへ赤い羽根共同募金?歳末助け合い?よくわかりませんが(笑)、 募金活動をしている女の子の姿が目に入り、一枚だけ持っていた 100円玉を「今日はイブ。たまにはいいことしようかしら」と、募金しに 向かいます。 いざ箱に100円を入れようとすると、同時に他人の手が。 その手には、何と4万円札が!! 持ち主の男は、桃子の存在に気づき、「どうぞ、お先に」とうながすの ですが、桃子の目はその4万円に釘付けです。 「よっ、4万円!その4万円、私がほしい!私に寄付してほしいっ!!!」 と、心の中で叫ぶのです。
しまいに、桃子の頭の中にはいろんな考えが・・・。 「いいなぁ4万円。あの4万円は私のこの100円が化けたものじゃなくて、 しっかりあの人の4万円なんだわね。 いや待って。もしかするとあの4万円は私のおまじないがきいて、 ほんとは私の4万円なんじゃないかしら。 ほんとはほんとは・・・。 何かんがえてるの私。 あの4万円はあの人の・・・いや私のおまじないの・・・・・ そうよ!100円が、あの100円玉の神様が・・・・・ だってそうよ、今日はクリスマスイブだもの・・・・・・」
と、頭の中がこんがらがっているうちに、雪の中を長い時間 路頭に迷っていた桃子は、高熱を出し、その場で倒れてしまうのです。
目が覚めてみると、そこはその4万円の持ち主の一室。 彼は鶸俣(ひわまた)昇という、若手カメラマン。 彼のおじいちゃんがアパートの大家をしていて、彼もここの一室を 借りて(でも大家に近い関係なのでたぶんタダ)暮らしているのです。
ここがアパートだと知った桃子は、入居させてくれるよう頼みますが、 昇は落語をさせてみたり、からかってみたりと、相手にしません。
でも、昇のおじいちゃんは桃子を気に入ります。 死んだ自分の妻にそっくりだという理由からです。
桃子はもう一息で入居できそう!と思いますが、昇の妹・美代子や 昇の反対にあい、とりあえず再び倒れてみるという仮病を使って、 もう少しいさせてもらうことに成功します。
ところが、落ち着いて部屋を見ると、昇の部屋には、 なんと自分の姉・かおりの写真パネルが!
その後、結局すぐに仮病がバレ、昇の家を出て行くことになりますが、 そこで「その写真の人と私って似てると思わない?」 「思わない(キッパリ)」「・・・・ハッキリ言うわねぇ、実の妹に向かってさ」 この一言に昇はびっくり。 「キミがこの美しい人の妹ということだろーか?」
とたんに昇の態度が一変。 まるでVIP扱いです。 この日から、桃子は昇の部屋に住まわせてもらうことになるのでした。 (昇は同じアパートの別の部屋に住む友達・かつみくんのところに 同居します)
かおりは、昇が大学のころ、通り道にある高校にいるかおりを見かけ、 その雰囲気に惹かれ、こっそり写真を撮っていた相手なのです。 その写真がきっかけで受賞し、カメラマンになれたのでした。 昇はそのときからひたすら、どこの誰ともわからないかおりに あこがれ続けていたのです。
やがてお正月。 親友(クーコとひばり)ふたりのうち、クーコはもうすぐ貯まったお金で 愛する人のもとへ、親にはナイショで海外に逃避行する予定。 桃子がお金に困っていたのは、クーコに仕送り金を貸してしまっていた からなのでした。 桃子に比べると、当の本人はあまり気にしていない感じのクーコなん ですが(笑)。 とりあえず神社へ向かった3人は、一人5円ずつ賽銭箱に入れて、 「よいことばかり起きますように・・・」とお願いします。
その夜、自分の新しいアパートへ、クーコとひばりをつれてきた桃子は、 消して出かけたはずの自分の部屋に灯りがついていることにびっくり。 3人は「泥棒!」と思い、急いで部屋に向かってその泥棒を こてんぱんにやっつけてしまうのですが(笑)、その正体は、なんと昇。 元の自分の部屋から、荷物を持ち出している最中なのでした。
ムスッとする昇に、謝る3人。 ところがここで、ひばりを見た昇は、「その中性的なイメージが、 探していたモデルにピッタリだ!」と、怒りも忘れ、男っぽいひばりを モデルにスカウトします。 クーコは大賛成。 「桃子はどう思う?」とひばりに聞かれ、桃子も 「うん、いいんじゃない?すごーくいいと思う!」と明るく答えます。 でも、桃子の心には少しだけ複雑な気持ちがわいていたのでした。 クーコは愛する人のもとへ旅立ち、ひばりは昇からモデルのスカウト。 自分には何もありません。素敵なことは何も。 つい、ひがみの心が出てしまうのでした。
やがてひばりの撮影が開始。 見学に行く桃子とクーコ。 クーコは「桃子だっていいかげん恋人の一人くらい作らないと」と スタッフの男性達について、桃子に勧めてくるのですが、桃子は 何かと難癖をつけては気に入りません。 桃子にとって、一番理想に近いのは、実は昇なのですが、 昇にはすでに、桃子の姉、という思い人がいる・・・・。
桃子は、アパートを貸してほしいがあまり、最初の時点で 昇にウソをついています。 桃子の姉・かおりは、もうすぐ結婚するため、いま、故郷の北海道で 花嫁修業中。 でもそれを知ったら昇は部屋を貸してくれないだろうと思った桃子は、 「姉は世界中を旅していて、いまは日本にいない」と伝えていたのです。 そして、いずれお姉さんを昇に紹介すると約束までしていたのです。
話を戻して、ひばりの撮影現場。 ボーッとしている桃子は、みんなにおしぼりでも配ろうというクーコの 提案でおしぼりを配る途中、昇のカメラの前に立ちはだかってしまい ます。 あわててどくと、そこにはケーブルが。 撮影道具がグチャグチャに倒れ、あえなく撮影中止。
そのまま、数人のメンバーでお酒を飲みに行きますが、桃子は 自己嫌悪。 「めったにやらないドジをやると、落ち込むなぁ・・・」 この辺、桃子がやや完璧主義者で、プライドが高いというか、 意地っ張りな部分がよくわかります。
そこへ、そんなに怒っていない昇が話しかけに行きます。
「キミさぁ、お姉さんにはいつ紹介してくれるわけ?」 ギクッとする桃子。何とか話をそらそうとします。
でも結局かおりの話になってしまい、桃子は酔っ払いながら、 つい、子供のころに犬を飼っていたが、その犬が死んだときに かおりが先に泣き出してしまって、自分もすごく泣きたかったけれど、 かおりの泣くのを見たら、自分は泣けなくなってしまった・・・と 思い出話をするのでした。
同じく酔っ払いながらそれを聞いた昇は、少しだけ、桃子のことが わかってきたような気がするのでした(多分)。
やがて新学期。 大学は後期試験のシーズンです。 このころ、桃子にはお金がありません。 そこで、最近女子大生に流行っているというあるバイトを始めることを 思い立ちます。
一方、ひばりの撮影もようやく終了。 みんな(桃子はいない)で出来上がった写真を見ながら、 昇はつぶやきます。 「しかし似てるなぁ・・・(自分のおばあちゃんの若いころに、という意味)」 クーコが聞きます。「誰に?あ、わかった。桃子のお姉さん? そりゃ似てて当然よぉ。桃子とお姉さん、双子だものねぇ」 それを聞いて、昇はびっくり。 桃子とかおりは、似ても似つかない顔立ちなのです。 「ふっ、ふたご?いっ、双子ぉぉぉ???」
昇の部屋(というか友達と同居だけど)に呼び出された桃子は、 その部屋に自分の大きな写真パネル(カメラの前に立ちふさがった時に 撮られたもの)と、姉・かおりのパネルとが並んで置いてあるのに気づき 大憤慨します。
昇は「そんなにひどくないだろ?」というのですが、桃子にはこんなことは たまらないのです。 写真を並べたら、ふたりがまったく違うことがわかってしまうじゃない!と 怒りつつも泣く桃子。 「たとえばお姉の顔が天使だとしたら、私は悪魔的ってことよ。 子供のときは気づかなかったけど、最近鏡を見ると感じるのよ。 あなたプロのカメラマンなんだから気づくはずよ」 「確かにこれが双子だろうかと・・・でも気にしすぎじゃない? タイプが違うだけだよ」と昇は何の気なしに言います。
桃子は、姉と並べられることがたまらなくイヤなのです。 なぜなら、桃子の好きになる人はみんな、桃子ではなく、かおりを 選んでしまうから・・・・・。 幼馴染の慎ちゃんは、小さいころからどんな草むらだって遊びについて いける元気な桃子を好きになってくれると思っていたけど、 本当は、身体が弱くていつも足手まといだったかおりのことを好きだった。 高校に入って、初めて告白してくれた先輩は、かおりを紹介した途端に 気持ちが変わり、数日後にはかおりとツーショット、 桃子には「君は強い人だから・・・」とお別れの手紙を。 おかあさんだって、身体の弱いかおりのことは気にかけるけれど、 桃子が泣き顔を見せると、いつも困った顔をするばかり。 みんなみんな、かおりに獲られてしまう人生。 何をやったってかなわない。 桃子はかおりが憎くて憎くて・・・かおりに悪気はないのがわかっている からこそ余計に・・・・・。 幼いころから次第に、コンプレックスの固まりになっていたのでした。
そんなことは知らないけれど、写真を並べたときの桃子の動揺振りを 見て、昇は桃子のことを気になりだします。
↑これには伏線があります。 実は、先日の撮影強制終了事件(?)の翌日、桃子と一緒に酔っ払って 帰宅した昇は、自分の以前の部屋=桃子の現在の部屋で、そのまま 眠ってしまいました。 桃子も酔っ払ってて、気づかず(笑)。 翌朝、目覚めた桃子は、床に昇が寝転がっていることにビックリ。 その上、寝ぼけている昇は、桃子を祖母と見間違えて、 「おばあちゃん」と抱きついてしまうのです。 (けっこうおばあちゃん子なんですよ、昇が。 最初のころにも、これと同じようなエピソードが出てきます) 2度目なのでさして驚かない・・・といいつつ、桃子は昇の寝顔が 可愛く思えて、しばらくおばあちゃんのフリをして寝かせてあげるの でした。 が、このとき、実は昇はすっかり起きていて、寝たフリをしています(笑)。 この日の桃子の優しい面を知っていたので、 かおりと比べられたときに憤慨する桃子のコンプレックスとのギャップも あって、桃子のことを気になりだしていく・・・という感じなのです。
数日後、桃子が隠れてやり始めたアルバイト(スナックのホステス? 接客はしないけど、バーテンとホステスの中間のような)先に 昇がモデル仲間との飲み会ついでに偶然やってきてしまいます。 はじめは気づかない昇でしたが、酔っ払って、 「キミの後ろ姿が素敵だなぁ。正面もぜひ見てみたい」などと 桃子の背中に絡むうちに、 桃子を驚かせて振り向かせることに成功(笑)。 結局、ホステスが桃子だったことがバレてしまいます。
桃子を外に連れ出し、話を聞く昇は、桃子の 「あたしにとってこういう仕事、なんてことないの。 あたしは人一倍しっかりしてるし、何だって器用にこなして、 強くたくましく生きてるんだから」 という言葉にあきれ返ります。 昇から見たら、桃子は、自分のなけなしのお金を友達に貸し、雪の中を 路頭に迷い、肺炎寸前で倒れ、そしてついにはスナックでバイト。 どう見ても危なっかしい女の子に見えるのです。
「危なっかしい」なんて生まれて初めて言われた桃子は動揺し、 昇をひっぱたいて立ち去ります。
このころ、ブラザーコンプレックスの昇の妹・美代子は、桃子と昇の 雰囲気が面白くありません(そんなに進展してないんですけど(笑))。 ある日、桃子に「お兄ちゃんに近づかないでよ」と釘を刺します。 母を幼いころに亡くし、父と二人暮らしの美代子は、兄を恋人のように 慕っているのです。 (でも昇とおじいちゃんは、何とかして突き放さないと、と思っている)
その日、昇は桃子に「新しいバイト」を紹介してくれます。 行ってみると、それは昇の撮影道具の運び人(笑)。 しかも、ほとんど男性陣が持っていってしまうので、2つしか荷物が ないという(笑)ラクなバイト。 見かねた昇は、そんなバイトを桃子にあげたのです。
が、昇を好きなモデルの女達は面白くありません。 早速桃子を外に呼び出して、美代子のように(笑)釘を刺そうとしますが、 強気の桃子は負けません。 やがて女同士の大喧嘩になり、気づいた昇が止めに入ります。 昇の前で、最初は強がっていた桃子も、ついに泣き出してしまいます。 桃子は、写真パネルの時といいこの時といい、昇の前では うっかり泣き顔を見せてしまうのです。 いままで好きになった男の子からは「桃子は強い女」だから、 「かおりは放っておけない子」だから、と振られていたのに・・・。 すっかり昇と桃子の世界になってしまったその場で、 怒ったモデルたちは撮影をホッポリ出して、帰ってしまうのでした。
ちょっとずつ近づく桃子と昇の心の距離。 次第に、昇はあれほど大好きだったかおりの写真パネルではなく、 桃子の写真に目が行き始めていくのでした。
お互い、ちょっとだけ意識し始めて、ぎこちなくなる朝の挨拶。 そんなある朝、桃子の男友達から電話が来て、その明るい様子に 昇も普通じゃいられません。 桃子も桃子で、わざと昇に聞こえよがしに、さも彼氏からの電話で あるかのように振舞ったりします。 (この辺は意地の張り合い?) でも昇がいなくなると「何やってんのかしら私」と我に返るのです(笑)。
昇が好きなのは、かおり。桃子はそう思っています。 昇の不在中に、こっそりアルバムを見たりするのですが、 「やめた!・・・あいつの心にはお姉が住んでるし、ひたむきなこと やっちゃうと、なんだかみじめよ」と、 バタン!とアルバムを閉じ、自分の想いも閉ざそうとします。 そして、違う恋を探すべく、男の子を紹介してもらおうと、 親友・ひばりの元へ行くのでした。
ここのひばりとのシーンが面白くて、個人的に好きなシーンです(笑)。 まさかひばりがグラタンを作れるとは! 女の子らしいウィッグを持っているとは! と、読者もびっくり。 桃子の「はっ、80年代の女のテーマ!それは女らしさに他ならないと 思うのよね私まだ恋人もいないし!!」と饒舌になるところも笑えますし、 ひばりから紹介する男の子の好みのタイプを聞かれて、桃子も 「そ、そーねぇ、そーねぇ、優しすぎず厳しすぎす、巻き毛で・・・・」などと 赤面しながらマジメに答えるのですが、それに対してメモを取りながら 「変な好み・・・」とこっそり思うひばりにも爆笑です。
それはさておき、その夜アパートに電話がかかり、昇が受話器を とります。 相手は、なんと、かおりです。
突然のあこがれの人との通話。 どうしていいかわからない昇ですが、そんな昇にかおりは 来月結婚すること、桃子が結婚式に出席してくれるかどうか聞きたいと いうことを告げるのでした。 驚きながらも(多分すごく複雑な感情だと思います。単にかおりが 日本にいて、来月結婚、という事実よりも、桃子がそれを隠していたこと、 ウソをついていたことに対して動揺する、というか・・・)、冷静に振舞う昇。
そのときちょうど桃子が帰宅します。 電話がかおりからで、結婚することも聞いた、と昇に知らされ、 桃子はかおりに関する全てのウソがバレてしまったとわかり、 急いでかおりが待つ電話を切り、そのまま大慌てで荷物をまとめ、 夜逃げのようにアパートを後にするのでした。
急にいなくなった桃子を探そうと、とりあえずひばりの家に電話する昇。 「うちにはきてないけど?あ、じゃあクーコの家に電話してみたら?」と 自然に返答するひばりの部屋のすみには、桃子が(笑)。 ひばりの演技力に感心しています(笑)。 桃子が転がり込んだのは、ひばりの家だったのでした。
それから仕事先に向かう最中も、何かと桃子を探す昇。 ある日、偶然、桃子がひばりに紹介された男子学生とデートしているのを 目撃します。 そこで喫茶店から桃子を連れ出すのですが、結局お互い素直になれず、 ひっぱたきあい(笑)になってしまい、別れてしまいます。
ところが後日、あの日桃子とデートしていた男子・佐藤くんが、 別の女の子とデートしている現場を目撃してしまった昇は、大混乱。 そのデートに割って入り、佐藤くんに詰め寄りますが、 佐藤くんは「桃子さんとはあの日一回デートしたきり」といいます。 ますますワケわかめ状態の昇。
とりあえず、ひばりに何か聞いてみようと、ひばりの家に向かうと、 ちょうどクーコとも鉢合わせ。 クーコだけが来たと思ったひばりは明るく迎え入れようとしますが、 そのうしろに昇の姿を見たから大変! 急いで2階の自分の部屋に行き、桃子に知らせます。
急な展開にどうすることもできず、押入れに隠れる桃子。 ズケズケと部屋に入ってくるクーコと昇。 が、昇は見つけてしまうのです、桃子の大きな旅行バッグを。
なんとなくここにいる予感を感じた昇は、ひばりに、かおりのことは もういいから、早く陽の当たる場所(押入れじゃなく(笑))へ出てきて ほしい、と伝えてくれと言い残し、押入れを見ながら、その場を去るの でした。 (もちろん桃子もこの言葉を押入れの中で聞いています)
後日、外に出た桃子は、本屋さんで何気に昇の写真集を見つけます。 それは風景写真ばかりで、桃子の田舎によく似た場所が写っていました。
そのあとがきに「妹を連れて、いるはずのない母や祖母の待っている 家へ、時々帰りたくなる。帰りたいけど、帰れない家へ・・・」とあり、 桃子の気持ちがこの言葉にリンクします。
「帰りたいけど・・・帰ってもう一度・・・・・ もう一度、子供に戻って、いろんなことやり直して、素直な女の子に 生まれ変わりたいな・・・・・ ・・・・慎ちゃんや先輩が・・・あたしよりおねえさんのことを好きになって 当然だったのかもしれない」
桃子だって子供のころは、100円玉の神様を信じてお願い事をする ような、無邪気で素直なかわいい女の子だったのです。 もう1回、あの子供のころに戻れたなら、かおりのことなんか関係なく、 素直なままの女の子として人生をやり直したい・・・そんな気持ち(多分)。
桃子は、自分のコンプレックスの心のパネルをはずすために、 故郷に戻って、かおりの結婚式をお祝いしてあげて、 昇にも心から謝って、そして、昇を忘れよう・・・・そう決意するのでした。
飛行機は飛び立ちます。北海道へ向けて。
機内では、高所恐怖症の人がコートにくるまって震えています。 そんな中、乱気流に乗ってしまい、飛行機はグラグラに。 その瞬間、その人は桃子に抱きついて怖がります。
よくよく見ると、それは、なんと変装した昇だったのです。 思わぬところで再会してしまう二人。 実は昇はひばりから桃子のことを聞いて、パジャマのまま(笑) 急いで飛行機に乗り込み、一応変装して、 降りたら桃子を捕まえようと思っていたのです。 到着後、サッサと逃げようとする桃子を昇は急いで捕まえます。 桃子は、昇が、かおりについてのウソを謝らせようと追いかけてきたと 思っています。 でも実際はそうではありません。 もう昇には、かおりのことはどうでもよいのです。 昇が好きなのは、桃子なのだから。桃子が、好きなのだから。
空港の中、ふたりの時間が止まります。
・・・やがて、かおりの結婚式。 ふたりは出席し、桃子は心の中で、心の壁に長いあいだ掛かっていた、 姉の写真を、ようやくはずすことができました。
そして、昇と桃子も、3ヵ月後に結婚することに。 相変わらず言い合いの終わらないふたりに、母親も不安はありつつ・・・ 一方、東京では昇のおじいちゃんは上機嫌。 自分の亡き妻によく似た子が、孫のお嫁さんになるのですから。 妹の美代子は不機嫌。でも、兄からの卒業を受け入れなくてはならない ことも、わかっているのでした。
まだ北海道にいる桃子と昇。 桃子の耳には聞こえてきます。 クリスマスイブに初めて会ったときにも鳴っていた、「鐘」の音が・・・・・。
実は、この作品で一番好きなシーンは、ラストのほうの、飛行機から 降りて、空港で昇が桃子を抱きしめるシーンのセリフなんですけど、 なんかちょっと恥ずかしくて書けませんでした(照&笑)。 いや、なんてことないセリフなんですけど。 でも、書けないものですね〜〜〜〜。
とにかく「かおりじゃなくて、桃子のほうを好きなんだ」というのが ストレートに伝わってくるセリフで、ここで一気にいままでの展開が サーッ!とスッキリした!!!みたいな気持ちになるのです。
最初のシーンで、昇が4万円も寄付しようと思ったのはなぜかというと、 昇は大変な高所恐怖症。 「ひわまたのぼる」という名前の印象とは、まったく逆なのです。 それを克服しようと、飛行機に乗る決意をしてチケットを買ったものの、 結局乗れずに、そのまま払い戻した「涙の4万円」なのです。 最後になってそれがわかるあたり、岩館さん、ストーリー作りがうまい なぁ、と感心させられます。
この作品は、好き嫌いが分かれるかもしれませんね。 桃子は素直じゃないし、冷めてるし、ひねくれてるし。 でも最後はハッピーエンドなので、そんなことないかな?
私自身、この作品をリアルタイムで読んだわけでもないし、 岩館さんの作品は初期のものはほとんど持ってるんですけど、 ファンとして色々詳しいわけじゃありません。 だから、どのシーンに一番力を入れたのか、なんてことまでは わかりません。
でも、私個人としては、やっぱり空港でのシーンに尽きると思うのです。
あの短いセリフの中に、この連載の全てがギュっ!!と凝縮されてる んですよね。 この一言を待ってたのよっっ!!!みたいな。
私がこの作品を好きなのは、桃子の人生に、すごく共感できるから なんです。 幼いころは女の子らしい夢を持ち、子供らしい明るさを持ち、 将来への希望を持っていたはずの女の子が、 それらをいろんなシーンで崩されて、傷つけられて、知らずに クールぶった、ひねくれた、意地っ張りな女の子に成長してしまった。 そういうことに、すごく共感できたんです。
途中、ひばりがモデルにスカウトされて「ひがんでしまういやーな桃子」 というモノローグに、読んでてちょっといきなりのこの心境には びっくりしたんですが、何度か読むと、ものすごく納得できます。
クーコとひばり、親友2人にはこれから新しい未来が待っているのは 明らか。 自分には何もない、何も「素敵な変化」が起こらない。 たとえ親友でも、素直に喜んであげられない。 大人になればなるほど、共感度が増しました(笑)。
隣の芝生が青く見える。 でも実際、隣の芝生は青いのだから仕方ない。 だって・・・自分の芝生は青くないんですから。
いつもいつも姉のかおりに美味しいところを持っていかれていた人生に、 桃子にひがむなというほうが無理です。
私も桃子のような体験を何度もしているので、すごく良く分かります(笑)。
ルックスも性格もかわいげのない子は、誰かを好きになっても 無意味なの? 好きになった人に愛されることは永遠にないの?? 自分の夢や、好きな物を、他人に獲られるのは仕方ないの??? なんでもかんでも、あきらめなくちゃいけないの??? そんな気持ちを一度でも感じたことがある人なら、桃子のキャラクター にはすごく相通じるものを感じられると思います。
犬が死んで、泣きたかったけれど、かおりが先に「かわいそうかわいそう」 と大泣きし始めてしまい、泣けなくなってしまった桃子。 ・・・かおりが泣くほうが似合うから?桃子のキャラじゃないから? 「放っておけない、支えてあげたくなる」といわれ続けるかおりのそばで、 自分の弱い部分、女の子らしい部分は抑え続ける癖がついてしまった 桃子。 桃子だって、好きな人を獲られれば傷つくし、ぶたれれば痛いのです。
でも周りはみんな、雰囲気とルックスで人を判断するばかり。 「もう慣れっこなんだから」とあきらめる桃子の言葉は、 本心であるはずがないのです。
子供のころとは性格が捻じ曲がってしまった女の子は・・・ 心の壁にコンプレックスの額をかけるしかなかった女の子は・・・ 本当は、昇みたいな人を待っているのです。
王子様のように優しいわけじゃないけれど、 ひょうひょうとしながら、本当の自分を見つけてくれて、それを正面から 見つめてくれて、大きな心で認めてくれる。 ・・・・・ぜったい居ないかしら(苦笑)。
まぁこれはテーマから外れる見方だと思うんですけど、 いつもいつも、かおりに好きな人を獲られていた桃子が、 最後になって、同じくかおりを好きだったはずの人(昇)を 自分のほうに振り向かせることが出来た、というのも、すごく爽快! というか、やったーーー!!!みたいな気持ちにもなるんです(笑)。 わ〜、やっぱりかなりひねくれてますね〜、私も。
できれば、かおりにその事実を告げて、一泡吹かせてやってほしい、 なんて(笑)。でもかおりみたいな子に限ってへこたれないのよね(苦笑)。
あと、昇の妹の美代子のセリフの「写真の中だけの人(かおり)なんて 怖くないわよ。私は桃子さん自身に言ってるんだから」というのも、 妙にリアリティがあります。 それまでの昇は、ルックスと雰囲気しか知らないかおりを好きだった。 でも、桃子は身近にいて、お互いの魅力に気づいてしまったら、 恋に発展してしまう可能性がある。 美代子はズバリ言い当てていて、こういう深いセリフが、けっこう あちこちに出てくるんですよね。
岩館さんの作品の魅力は、そういう部分にあったのかもしれません。
桃子の親友ふたりのキャラクターも、実際にいそうな感じで好きでした。 ポッチャリしてて、ちょっと近所の縁談オバサンみたいなクーコに、 サバサバしていて男性的だけど、女性らしさにも憧れを持つひばり。 こんな親友たちは、大事にしてもらいたいものですね(って誰に言ってる んだか)。
昇の仕事仲間で、部屋の同居人となる「かつみくん」も かっこいいし、性格も優しくて朗らかそうで好きでした。 かつみくんはかなり初期の段階で、昇が桃子を好きになっていることに 気づいているのです(笑)。 笑って見守っている感じがよかったです。 かつみくんとひばりがカップルになったら面白いのにな(笑)。
それにしても、この物語には謎がひとつだけあります。 桃子とかおりが、なぜ高校だけ東京に出てきたのか、ってことです。 ちょっとその辺だけは理解できませんでした(笑)。 かおりは高校だけ東京で、中学までと高校卒業後は故郷の北海道で 暮らしているようですし。。。
ところで、岩館さんの作品では他に、『乙女坂戦争』『約束』というのも 好きです。
『乙女坂戦争』も、主人公が私と似てるところがあります(笑)。 昭和56年の「週刊マーガレット」連載ものです。
出だしに、幼馴染の大学生・大藪くんに命令されて、駅の路線表で、 知らない駅名を探す&走って電車に乗りそびれるシーンがあるんです けど、その後、混み合う電車の中で主人公・柊子は不遜顔で思います。 「だから人混みって好きじゃないのよ。・・・大体、こんなところ、あたしの いるべき場所じゃないのよ。あたしは自分だけの静かな世界で、 いつまでもジーッとしていたいのに・・・・ 時々こんな風に、そこから無理やり引っ張り出されて、不快な思いを させられるのよね・・・・・」 もう、すごくすごく、わかるわかる〜!という感じで、なんてリアリティの あるセリフなの〜〜!!と、もうしょっぱなから感動したものです。 そして、これから自分が転校・入居する「からたち女学院」の寮に行き、 それが4人部屋だったり、食事の運搬や掃除を自分たちでやらなくちゃ いけない、という想定外の事実に出くわし、ますますウンザリしてしまう・・・ という展開なのですが、この辺のくだりも、私にはとても共感できるワケ です(笑)。 マイペースが好きな、世間知らずで、しかもそれが心地いい環境に 育ってきている者にとって、いままでの生活が一変してしまうのは キツイものがあります。わかるわかる(苦笑)。 ただ、幼馴染の大学生・大藪くんを、同じ寮の女の子・一子と獲り合う ような展開になっていくのですが、このあたりはちょっと(かなり) イライラしながら読みました(笑)。 私は基本的に、人の気持ちを知りながら、自分本位で邪魔をしてくる ようなライバル女、というのが好きじゃないのですよね(笑)。 しかもこの作品は、この大藪くんの気持ちもサッパリわからない のです。 こーゆー、一見クールなのに、裏ではいろんな女の子と会っていて、 確かに別に柊子に言う必要はないんだけど、一体、柊子のことを どう思っているのか分からない、似非フェミニストみたいな男子って、 ホント、イライラします(苦笑)。 柊子のほうは、大藪くんのために、不慣れな料理を勉強したり、 できるだけ成長しようという姿勢が見られ始めるのです。 それだけに、一子ともこっそり会っていた、という事実は、私には かなり疑問というか、ショックでした。 こういう男は、ふたりともが自分に気があることを間違いなく知って います(笑)。あんまりいい気にさせちゃいけません(笑)。 こんな調子で、女子たちの乙女心を振り回す大藪くん。 だからなるべく、物語の終了後、柊子と彼はどうなったのか・・・は 想像したくないなぁ、と思っているお話です(←どうでもいいよね笑)。
『約束』は、昭和54年「週刊マーガレット」掲載の短編作品です。 フランスを舞台にした物語です。 こういうのは佐藤志保里さんが描くと、さらに洋画っぽくなるんじゃ ないかな、と思うのですが、岩館さんの作品としては、異色な感じが します。 内容は、3人の男子学生と、1人の女子学生の、4人の幼馴染の話で、 男子3人のうち、デザイナー志望の男子・サブロウと、小説家志望の 男子・シモンがいつもいつも1人の女子学生・フロランス(モデル志望)の ことでもめていて、彼女はウンザリして、とうとう、 「3年間、みんな会うのはやめましょう。 3年後の12/31に、誰を恋人に選ぶか決めるわ」と提案します。 それから約束どおり、3年間、みんな通りすがることはあっても、 話はしなくなるのです。 そして3年後のパリ。 約束の日が来ました。 雪の降る中、モデル志望だったフロランス、デザイナー志望だった サブロウ、小説家志望だったシモンがやってきます。 でも、あとひとり、ギイだけが来ません。 3人はみんな、それぞれの将来の夢をこの3年間で果たし、 充実した人生を送っています。 でもギイはみんなのように華やかな人生を送っているわけでは ありません。しがない観光バスの運転手です。 フロランスを好きだったけれど、幸せに出来るのはあとの2人の どちらか・・・とあきらめて生きてきたのです。 さてさて、4人の「約束の日」は、どんな終焉を迎えるのでしょうか・・・? なかなか感動的なお話です。 この作品は地味ながら、ギイの時間経過の中での心理状態が すごく丁寧に描かれていて、ギイにすっかり感情移入してしまいます。 サブロウ(三郎)が日本人なので、ギイも日本語がけっこうわかる、 という設定も好きでした(笑)。 表紙も、ホントに洋画のポスターみたいで、ムードがあります。 この当時、アイビー系の作品が多かった印象のある岩館さんですが、 こういう作品ももっと描いてほしかったな・・・・とそんな気もします。
ちなみに、最初に書いた『グリーンハウスはどこですか?』は、 モロにアイビー系というか、太刀掛秀子さんや田渕由美子さん系の 乙女ちっく派な作品です。 この作品から『チャイ夢』のあいだまでに、登場人物の心の描き方が すごく進歩?というか、変化しているのがハッキリわかります。 きっとこの時期、いろいろ考えられたんでしょうね。
『チャイ夢』の昇くんは、きっとこれからも、私の理想の男性の一人と なると思います(笑)。 実際には居そうで居ないでしょうけど・・・。 岩館さんが初期に描いていた男性って、こういう「ひょうひょうとしていて、 ちょっと変わり者で、でも相手の心をわかろうとしてくれる人」という パターンが多かったですね。 『となりの住人』のお隣さんもそんな感じで好きです。 私みたいな読者さんも、きっとたくさんいると思います。
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