『この娘うります!』 作者:萩尾望都 掲載:「週刊少女コミック」昭和50年6号〜16号
久しぶりの更新です。3年ぶりくらいでしょうか(汗)。 遊びにきてくださっていた皆様、すみませんでした。 いろいろあり、今後も更新がとどまることが多くなりそうです。 というわけで、今は2009年11月でございます。 久しぶりに、少女漫画について語りたくなりました。
私にしては珍しく、大御所の作品を選んでみました。 この作品は、実は私はリアルタイムでは読んでいません。 「週刊少女コミック」って、実は一度も読んだことがないのです。 (「別冊少女コミック」のほうは中学時代に友達から勧められて 一時期だけ読んでいたのですけど) 数ヶ月前、たまたま本棚を探っていたら、この本が出てきました。 大変びっくりしました(笑)。文庫本でしたが。 それでも巻末のデータによると、12〜3年前に買ったようです。 こんな本を買っていたこともすっかり忘れていました。いけませんね。
というわけで久しぶりに読んだ「この娘うります!」。 これがなんと、メチャクチャ面白かったのです! 以前読んだときはどんな感想を持ったかなー? それすらもう忘れてしまいました。 でも多分、そのときも「面白い!」と思ったに違いありません。 それくらい面白かったです(←しつこい)。
内容は、子供服のテーラー(言い方が古いかな((笑))を営んでいる 父親を持つ、ドミことドミニク・シトロンが、1月2日、15歳の誕生日を 迎える朝から始まります。 ドミの母親は幼い頃に亡くなっていて、父親と、家政婦のナニィと、 3匹のネコと暮らしています。
その日はドミの学校の新学期。 1月2日から新学期なんですかね、フランスは。 その辺は良くわからないのですが、とにかく、新学期にはいつも パパの手作りの白い洋服を着て登校する清純なドミです。 シスターにもそのことをほめられます。 その様子を見ていた友達のプチとパピ(彼女達は双子なんですが、 他の作品にも登場してます)は、このさいドミを大人に変身させようと、 赤いドレスとイヤリングをプレゼントするのです。
「心ばかりのプレゼント」。 ドミにとってはセクシーすぎて、着慣れないドレスワンピ、イヤリング。 そのままプチとパピは、ドミをラブシーンのある映画に連れて行ったり、 スナックに連れて行ってしまいます。 そこで酔っ払ってしまったドミは、カウンターで隣の席に座っていた 少年と、彼の肩にとまっているオウムのワトソンくんに絡むのです。 (このワトソンくんが、何ヶ国語もしゃべれるという、ものすごい頭脳の 持ち主なのです。ワトソンくんの存在もまた、この漫画に欠かせない ものです) 少年はクラビーことクラバット。 クラビーはポーカーフェイスで、ドミの行動を何とも思いません(笑)。 (ここでパスタを食べているクラビーの絵が、全シーンの中で一番 かっこいいと思う(笑)) そこへ、彼の知り合いと思われるプランタンという長身の麗人が現れ、 ドミの帰り際、ドミのきれいな足に注目します。
夜、家につくころには酔いも冷め、室内でコートを脱いで、 うっかり赤いドレスをパパに見られてしまったドミは、そのドレスの 下品さに、とても叱られてしまいます。 赤いドレスはまだ早い。でも、「変身」した体験は、彼女にとって 成長の第1歩となるのでした。
翌日、ドレスをブティックに返しに行ったドミは、偶然、プランタンと 遭遇するのですが、ドミは酔っていた間のことをすっかり忘れていました。 プランタンはドミに、「変身が楽しいのは女の子なら当然」と、 今度は少年の服を着させて、「今日の午後はキミはアンリ(という名前)。 ハンサム二人がパリの町を歩くの」と、パリの街に繰り出すのです。
ここまでが導入部で、ここからがこの物語のドキドキワクワク、 楽しくなっていくところなのです。
男の子に変身したドミは、ハンサムで背の高いプランタンとパリの街を 闊歩します。 やがて、プランタンが「ここで待ち合わせをしている」と言い出し、 振り向くと、広場の階段から3人の、またまた麗人が現れるのです。 2人は女性、1人は少年・・・。
ネタバレすると、実はこの3人も変装していて、2人は少年、1人は少女 なのでした。 みんな、ドミより2歳くらい上でしょうか。 プランタンも含めて、この4人は何なのかというと、実は、モデルクラブに 所属する、ファッションモデルの卵たちなのでした。 ボスと呼ばれるモデルクラブの社長の命令で、毎日、変装しながら モデルとしての修行をしているのです。
この4人の中の一人が、ドミがスナックで絡んだ少年・クラビーで、 実はプランタンの弟なのですが、これが、女装をするととっても美人に なるのです。 (この設定が、後半のストーリーにも絡んできます。) この物語の面白さは、まずこのクラビーの、女装での変身ぶりにある のではないかと思います。 クラビーは女装をしなければ、ごくごく普通の、萩尾さんの描くこの当時 らしい少年に過ぎません(笑)。 それが女装をしたとたん、誰もが惚れるような美しさなのです。
足の美しさから、プランタンの推薦でこのモデルクラブにスカウトされた ドミを、翌日、学校まで迎えに来たクラビーはやはり女装をさせられて いました。 ところが中身は普通のぶっきらぼうな少年なので、見た目と反対に、 ドミに冷たい口を利いたりしてしまいます。 ドミは傷つき、それに気づいてあわてて慰めるクラビーに、ドミも ドキッと心ときめくのですが、これはクラビーが女装をしていなければ、 読者としては楽しさ半減のような気がします(笑)。 読者はドミとは違う意味で「ドキッ」としたに違いありません(笑)。
さて、もうこの時点で、ドミが誰とハッピーエンドになるかはわかって いるのですけれど(笑)、そのプロセスが全く飽きないんですよ〜。 ラストまでにドミは、プランタンに恋したり、モデル仲間のコリンに 惚れられてしまったり、映画で共演したイギリス人アイドルのマイクと 婚約しそうになったり・・・・・。 単なるモデル業界の話かと思いきや、そっちの専門的な部分は かなり端折られていて、この漫画は完全に、ドミの周りのドタバタ ラブコメミュージカルなのです。
200ページほどの連載ものですけど、それ以上の中身の濃さが ありますね。 季節も冬から春へ、次第に移り変わっていき、登場人物たちの状況も どんどん変わって行きます。 そして、ラストでは、全員が幸せになるのです。 だーれも不幸になりません。 もちろん物語の途中、ドミとクラビーの関係がギクシャクしたときでも、 ジメジメ暗い雰囲気はなく、絶妙なリズムで話が進んでいくので、 ハラハラしつつも何だか爽快感があります。 ドミもさっさと仕事だマイクと婚約だ、と、しゃかりきになりますし。 マイクはマイクでフランス語が単語でしかしゃべれないから、 重要事項しか言わないし(笑)。笑えます。
おそらく読んだ人の中には、クラビーは全く持ってダメ男、と思う人も いるかと思うのですが(笑)。 確かに随所で「ハッキリしろよ〜!」とつっこみたくなるくらい優柔不断 な感じもするのですけど、確実にドミを好きなことはわかっていたし、 まぁまだ将来に自信の持てない状況と、過去のプレイボーイ振りを 見れば、ドミへの態度も仕方ないか〜と思えなくもないです。 (なんて、プレイボーイならもう少し器用だよね〜〜というのが本音)
まぁ個人的には、マイクとの婚約を知ってわざわざ女装してまでドミの 仕事現場のショーに現れたのに、あんな顛末はないでしょ・・・と 呆れましたが、、、とにかくマイクとの婚約話が進まなければ、 クラビーがアフリカに行くこともないし、ドミが追いかけることもないし、 ポン・ヌフですか?よくわかりませんが、パリの名所らしいのですが(笑) あそこで「(最初のポイントだった)きれいな足の女の子・ドミ」が クラビーの乗る小船に飛び降りるシーンもなかったわけなので。 あの飛び降りるシーンは、唯一、クラビーが頼りがいがあるように見えた 貴重な一瞬でした(笑)。
でもきっとこの恋物語を締めているのは、ドミが後半になってやっと、 「どうしてクラビーの言葉をほしかったのかしら」 「わたし、もう少し待ってれば良かったのに」と、人の心がわかるように なって、成長の証がハッキリ見えるところですよね。 あのシーンまでは、ドミはかなり単純で、子供だったと思います。
そんなわけで、いろいろ遠回りしながら、美形の仲間たち&華やかな モデル業界という、平凡な毎日から180度変わってしまった日常の中で 繰り広げられる、ドミの恋愛ゲーム物語が、この「この娘うります!」。 (タイトルのような「モデルとして売り込む」ってシーンはほとんどない ですけど) 読後感はメチャクチャさわやかです。
「半神」の舞台化は見ました、昔。もう内容忘れた(苦笑)。 どうせ舞台化するなら、この漫画を舞台化してほしい!と思ったりも します。ミュージカルでお願いします。 とても楽しくなると思うんですが。 (車のショーで天井から落ちてくるシーンなんて、ぜひ見てみたいです。 余談ですけど、これと同じシーンが牧村ジュンさんの漫画にもあって、 年代から言って、先に描いたのは萩尾さんだと思うんですが(笑)、 牧村さんのほうを先に読んでいた私としては、少し複雑でした〜)
なんでも作者さんは「トーマの心臓」があまりに暗く難しい話だった ために、全く逆の雰囲気の話を作りたかったのだとか。 「トーマの心臓」は私も読みましたが、確かに完全に理解するのは 難しい話でした。今もトーマとユーリの心境についてはナゾだらけ です(笑)。理解しきっている様子のオスカーをすごいと思ったりします。 これはキリスト教を勉強しないとダメなんでしょうか。 でも、この手の話を理解できたのが、「少女コミック」の読者層なのでは ないかとも思ったりします。 何となく、当時の「少女コミック」の読者層は、すごく思想家というか、 文学的なものや宗教的なもの、倒錯的なものからSFまで、いろいろな ものを受け入れられる柔軟な頭脳を持っている人たち、というイメージが ありました。
萩尾さんの作品では「11人いる!」も読みましたね〜。 こちらも面白かったです。はまりました。 でも、講談社系で育った私なんかは、「この娘うります!」のほうが しっくりと夢を見られますね。 ホントにこんなことが起こったら、どんなに楽しいだろう・・・と、 素直に思えるんですよね。ドキドキワクワクします。
また、誰も不幸にならない、というのもなんとも素晴らしいです。 悪い性格の人がいないんですよね。 たとえば、普通の漫画なら、コリンがドミに惚れてしまってプロポーズして しまったら、コリンを子供のころから好きだったポーレットは、 たとえ自分もモデル仲間でも、ドミに嫌がらせしたりすると思うんです けど、ポーレットは多少こずるいことはやっても、決してドミを責めたり しないんですよ。 むしろコリンに腹を立ててたりして、面白いです。 ドミに告白しないクラビーにも腹を立てつつも、女装して撮ったクラビーの ポスターの、あまりの美しいできばえに「まぁすごい!」と素直に感想を 口に出したりもしていて、何だかとってもサバサバして、カッコいい 大人の女の子なのです。 萩尾さんの作品に詳しくないのでわかりませんが、萩尾さんも私と同じ 牡牛座なので(笑)、こういう描き方が好きというか、わざと狙ったのかな、 と思うんですけど、違いますかね(笑)。 だって、ヒロインと、嫉妬するライバル、なんて里中満智子さんみたいな 展開じゃ、つまらないじゃないですか?(笑)
ラストはドミとクラビーは(ワトソンくんも)アフリカにいます。 (クラビーはもともとカメラマン志望で、途中でそっちの方面を本格的に 志すのです) 大自然の中、ドミがスカートをはいていて、大人になった今読むと、 「おやおや、アフリカでスカートはありえないなぁ」なんてつまらないことを 思ってしまうんですが、ドミ15歳、クラビー17〜8歳?で、もう結婚の 話をドミがしてたりして、時代を感じます。 クラビー「結婚は生活だろ。もっと写真が売れるようになってから」と 言ったかと思うと「火星にいけるめどがつく頃にはね」と言い、 「いつ火星にいけるの?」と聞かれると「そりゃきっと・・・もうじきさ」なんて 言い放ちます。 いつなのよ!!!最後まで気を持たせるわね!!!プンスカ!! ・・・とちょっとイラつくラストなのですが、まぁきっとこのあとすぐ結婚したの でしょうね(笑)。
ところでこの文庫版にはほかに5編短編が収録されているんですが、 ラストの「ミーア」というお話も好きですね〜。 「この娘うります!」にも登場する双子のプチとパピがやはりいい味 出してます。特にサイコロ振るあたりが(笑)。 「3月ウサギが集団で」は絵柄もちょっとゴチャゴチャしていて、 内容も一度読んだだけでは入り込みにくいお話です。 でもこういうクラスも楽しいでしょうね。 「ハワードさんの新聞広告」はファンタジーコメディですが、ラスト、 ちょっとかわいそうですよね〜、ハワードさんが。
萩尾さんというと、幼い頃、牧野和子さんの漫画が何冊かうちにあって、 その巻末に他の漫画の広告が載っていて、そこに「ポーの一族」が 載っていたな〜、くらいの知識だったんですが、大人になって何篇か 初期作品を読む機会が増えました。 「ポーチで少女が小犬と」は、リアルタイムで読んだ読者の中には 衝撃的だったという感想をいくつか聴きます。 で、読んでみたのですけど、わたし的には、あの家政婦は何であんなに 威張ってんの?母親の意見すら退けるのかい!・・・と、そっちの ほうが気になってしまいました(苦笑)。 「小犬も?」「小犬はいい」っていうセリフもちょっとすごいですよね。 私はどちらのタイプに属するかといえば・・・少女のほうですね〜。 雨の中で虹を待ちながら遊ぶような、そんな少女時代だったと 思いますしね。
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