『そよ風さん見えますか?』 
              作者:いでまゆみ

              掲載:「なかよし」昭和55年1月号〜4月号


                                  


     これはファンがけっこう多い作品なんじゃないかと思うのですが、
     
いかがなもんでしょう?

     これが連載されたのは昭和55年1月号ということで、
     実際には54年の12月はじめの発売号ということになります。
     なので、内容的には、高校3年生の主人公にとって、
     2学期の期末テストが終わったあたりの時期からの物語です。

     主人公・みどりは高校3年、「志望大学もほぼ決まって、
     ため息ばかりの2学期末のハイスクール」なのです。
     親友のひろは国立大学希望で共通一次に必死ですが、
     みどりは私立の3流校でいいや程度なのです。
     そんなある日、同じ3流校仲間だと思っていた隣の席の男子・倫太郎が
     一流校を目指して猛勉強を始め、みどりはあせります。
     結局、大学は別々になってしまい、そうなって初めて、みどりは
     倫太郎を好きだったことに気づくのです。
     それから別々の大学生活を送るものの、ふとしたきっかけで再会。
     みどりのことを好きになってしまったサークルの先輩なども絡んで、
     最後はやっぱりハッピーエンドでめでたしめでたし・・・・。
     という内容です。

     こうして内容だけ書くと、乙女チックなラブラブ物のようですが、
     いでさんといえば、シュールなギャグでおなじみの方ですから、
     そんなこってりした作品ではありません。
     なんだかのんきに、人生ナメてる感じで話は進んでいきます。

           で、この作品の何が好きかといいますと、この当時、この作者の
     いで
さんもまさに大学生だったのですね。
     なので、とってもリアリティのある受験生生活&大学生活が描かれて
     いるように見えたのです。
     ちょうど「3年B組金八先生(パート1)」が放送されていたときで、
     子供心に、受験というものを身近に感じたものでした。

     この漫画を愛読していたせいか、私も実際に高校3年生になるのを
     楽しみにしていたものです。
     高校に入学し、3年が近づくにつれ、
     「ああ、私もみどりのような受験生活を・・・」などとリンクさせていた
     ものです。

     もちろん現実は、倫太郎のような男子が隣の席に来ることもなく、
     なーんにも起こりませんでしたが(笑)。

     主人公たちは受験が終わって、それぞれの大学生活が始まるわけ
     ですが、ここで登場してきた神谷玲とかいう華やかな男の先輩もまた
     子供(私)のキャンパスライフへの憧れを助長しました(笑)。
     クリスタルキングの田中さんのような、はたまた「セクシャルバイオレット」
     のころの桑名さんのような、カーリーアフロヘアが時代です(笑)。
     でもこの当時は、こんな髪型の男性=セクシーだったのですよね。

     この神谷先輩がフォークソング研究会に在籍していて、
     もちろんこの時代ですからかぐや姫のようなこてこてフォークではなく、
     オフコースや甲斐バンドなんかの、いわゆる「F&R」なわけですが。
     とにかく、オフコースのラブソングなんかを部室で一人弾き語っちゃったり
     しているわけです。
     それがセクシー&カッチョイイわけです(笑)。
     で「取り巻きの中に、オレのことを本気で好きな女なんかいない」とか
     哀愁たっぷりなのです。
     私も、こんな大学生が大学にはウジャウジャいるんだと思っていました。
     もちろん現実は、時代も変わり、こんな人はどこかヤバイ、と
     いわれる時代になっていたわけですが(笑)

     でもって最後には、結局神谷先輩はみどりにフラれ、お別れに
     水越けいこさんの「ほほにキスして」を歌ってくれちゃう始末です。
     もちろんほほにキスしながら・・・キザですね〜〜。。。。。

     とにもかくにも、ディスコでコンパをしたり、大学生メイクの練習をしたりと、
     その後の女子大生ブームが予感できるような雰囲気が
     あちこちに漂っている漫画でした。
     さすが、流行に敏感だったいでまゆみさんですね。
     「なかよし」の読者層よりも、自分と同世代の子や、挙句は自分の友達を
     ターゲットにしている感もありました。
     実際、主人公・みどりの親友・ひろというのは、いでさんの親友の名前でも
     あったようですし。

     ただ、私はぜんぜん知らなかったのですが、数年前に、
     くらもちふさこさんの「おしゃべり階段」とかいう漫画を人に借りたとき、
     「げっ!こりゃー『そよ風さん・・・』と同じじゃないかっっ!」と
     びっくりしました。
     しかもどうも、くらもちさんのほうが先っぽい・・・・。
     あうう。
     でも私は乙女チックなくらもちさん作品より、この「そよ風さん・・・」の
     ほうが、リアリティを感じてやっぱり好きなんですが。

     ちなみに、この本に同時収録されている「徹くんの女学生日記」も
     大好きでした。
     女子高の理事長の孫に生まれた徹くん(♂)ですが、
     その理事長が孫の学費を安く済ませるために、自分の女子高に入れて
     しまうという話で、このむちゃくちゃな設定にドキドキしました。
     徹くんは女装をしてこの女子高にイヤイヤ通うものの、ふとしたことから
     クラスメイトの女の子に恋してしまったりするのです。
     で、理事長はケチなのでお小遣いもくれず、徹くんは放課後、
     パーラー(喫茶店のようなとこ)でバイトをしているのですが、
     そこにその女の子達がやってきて、自分のことをウワサしているのを
     聴いてしまったりして、これが女子高生の実体か!と考えこんだりする
     のです。
     校内でも女子高ならではの光景にドギマギしたり、喜んだりして(?)、
     徹くんの様子が、いでさんならではのギャグタッチで、とても面白く
     描かれています。
     短編なのですけど何度読んでも楽しいです。
     はっきりいって、いでさんの絵柄も、このころが一番落ち着いていた
     ように思います。