『とらいあんぐるクリスマス』 
             作者:富沢珠緒

             掲載「なかよしデラックス」昭和60年12月号

                                  

     私にしては珍しい、昭和60年代の作品です。
     タイトルに挙げた『とらいあんぐるクリスマス』は、富沢さんの
     デビューが同年の「なかよしデラックス8月号(『めまいの春』)」
     なので、おそらくデビュー後第1作目だと思います。

     単行本では『あいどるし隊っ!』に収録されています。
     もうこの、モロに’80年代半ば的なタイトルからしてワタシ的には、
     あぁ「なかよし」の一時代が終わったな・・・・という感じでして、
     思えば『あいどるし隊っ!』はリアルタイムで読んだ記憶がないので、
     おそらく『とらいあんぐる・・・』掲載の翌年あたりに、私自身、
     「なかよし」や「なかデラ」を完全に卒業したのでしょう(笑)。
     (つか、単行本パラパラめくって調べたら、『あいどるし隊っ!』は
     「なかデラ」昭和63年1号掲載ですって。
     そーだよねぇ〜、内容に光GENJIの歌が出てくるくらいだもん。
     そりゃもう読んでないわ^^;) 

     それでも富沢さんの単行本は、ワタシ5冊持ってます。
     (3冊程度だろうと思っていたら、本棚に5冊もあって本人びっくり)
     『あいどるし隊っ!』『すきなのかしら?』『おじょうさまカンパニー』
     『なでしこ学園』『およしになってよ先生』・・・もしかして、富沢さんの
     全単行本だったりして・・・。

     と思ってましたら、どうやらこれらよりあとに『浦島学園パイレーツ組』と
     いう、親が海外赴任するため仕方なく全寮制の高校に入ってみたら、
     そこは無人島の高校で、TVはNHKくらいしか映らないっ!
     こりゃあかん!みんなで逃げ出そう!・・・と、毎回毎回逃亡計画を
     企てる生徒たちをテーマ(笑)にした連載作品があったらしいのですね。
     このコミックスは見かけたことがないのですけど、他にも数冊出されて
     いたのかもしれません。

     (なんでも、富沢さんのコミックスは今やどれも入手が困難とのこと
      なので、気になる作品をリクエストくださったら、持っている話でしたら
      ここで取り上げさせていただきますっ!
      収録作品でもOKです)

     私の記憶では、たぶん「めまいの春」も読んだと思うのですが、
     もう内容を忘れてしまいました。スミマセン(汗)。
     (私が持っている単行本には未収録でした)

     なんか本題の前にアレですが、「なかよし」の歴史物語になってしまうん
     ですが、以前から書いているように、私は佐藤まり子さんや高橋千鶴さん
     が活躍していた時代が好きだったんですね。
     それが1980年代に入って1〜2年もすると、高杉菜穂子さんが
     14歳くらいでデビューして(12歳から「なかよしまんがスクール」に
     投稿してた人なんですけど)、竹田真理子さんとか、竹本泉さんとか、
     八木ちあきさんとか、森下さとみさんとか、西原ちかさんとかが、
     ダダダーーーッ!・・・と、怒涛のごとくデビューしてきたわけです。
     まんがスクールの常連さんだった響理奈さんとか、たておか夏希さん、
     ひうらさとるさん、片岡みちるさん、武内直子さんも、続々デビュー
     してきました。
     富沢珠緒さんも、そんなフレッシュなメンバーの中のお一人です。

     で、何が書きたいかといいますと、これらのかたがたがデビューした
     ことで、その作風のあまりの新しさ(?)についていけず、
     私の中で「なかよし」や少女マンガへの気持ちがかなり薄れて
     しまったのであります。
     それを「成長」とでもいうのでしょうか・・・・・(ため息)。
     銀河鉄道999風にいうならば「さらば少年の日々・・・(少女だけど)」
     と、まぁそんな感じでしょうか。

     というわけで、この時期以降、リアルタイムで少女マンガを買うことが
     ほとんどなくなってしまいました。

     「マーガレット」では紡木たくさんが、「フレンド」では松本美緒さんが。
     そんな時代です。
     なんというか・・・・・・・う〜ん、うまく言えないのですが、これらの
     かたがたの作品に、全く感情移入ができなかったんですね。
     当時の等身大の中高生を描いているはずなんだけど、私の周りでの
     リアル感がなく・・・。私が過ごしている学校生活の日常とは大きく違って
     いたし、こんな青春にはあまりあこがれないな〜と思ってしまったのです。

     はっ。前置きが長すぎた(笑)。

     で、話を戻すと、そんな中、富沢さんの作品だけは、どこか惹きつけ
     られるものがありました。
     特に初期の1〜1.5年(笑)。

     特に気に入ったのは、絵柄ですね。
     ひうらさとるさんやたておか夏希さんと同じ系統なんですけど、
     初期の富沢さんの絵柄は、丁寧なんだけどどこかゴチャゴチャ荒くて、
     なんかそれが面白かったのです(笑)。ゴーギャンみたいな(笑)。
     授業中に鉛筆でノートの端っこに描いたイラスト、そんな感じもあって。
     そう、鉛筆で何回も何回もなぞったような、不思議な描線だったのです。
     輪郭や目元なんか、とっても可愛かったです。
     でも、1年半を過ぎたころから、タッチが手馴れてきたぶん、
     ちょっと絵柄が変わってしまいました(^^;)。

     今回取り上げさせていただいた『とらいあんぐるクリスマス』は、
     まだデビュー後第1作目ということで、非常にいいタッチです(笑)。

     内容は、私立神代(じんだい)学園という、小学校から大学まである
     エスカレーター式の学園に通う、男子2人、女子2人の、計4人の
     幼馴染の中学3年生たちのお話です。読みきりです。

     主人公の「まーこ」、ちょっとクールでアブない女子「未美子」、
     野球に青春を燃やす(?)「かっちゃん」、ピアノが得意な「たろちゃん」。
     4人はエスカレーター式の中学なので、当然受験勉強とは無縁です。

     クリスマスも近い冬のある日、生徒会長の細川君が、新聞だか
     小説誌だかを持って(この辺、絵柄を見てもハッキリわからなかった笑)、
     まーこたちの教室に走りこんできます。
     そこには、まーこがジュニア小説大賞に選ばれた記事が載っていました。
     そんなことは知らない幼馴染の3人はびっくり。

     細川君は、まーこの小説の才能に感激し、生徒会主催のクリスマス会の
     演劇の脚本を書いてくれるよう、頼んできます。

     なんだか私が書くと、マジメな少女マンガのあらすじみたいなんですけど、
     えっと、えっと、これ、もっとおちゃらけてるというか、かなり軽いタッチの
     ストーリーだと思ってください。

     細川君の強引さに、引くに引けなくなってしまうまーこ。
     他の3人も、軽〜い感じでまーこを応援するのでした。

     実はまーこは、男子2人のうち、男臭いかっちゃんに惹かれています。
     かっちゃんも、実はまーこを好き。
     お互いはそれを知りません。

     ところがその日、いつものように帰りの分かれ道で、かっちゃん&
     未美子、たろちゃん&まーこに分かれて帰る途中、たろちゃんが
     まーこに「僕は他の高校を受けようと思ってる」と言い出すのでした。
     (なんか「たろちゃん」だの「かっちゃん」だのって、いい大人が書くと
     恥ずかしいなぁ(笑))

     衝撃の告白(?)に驚くまーこは、たろちゃんに理由を聞くのですが、
     その理由は「ピアノを本格的にやりたい。これ以上まーこに差を
     つけられたくない。まーこが好きだから」・・・ということでますます混乱。
     何と、たろちゃんまでも、まーこのことを好きだったのです。

     それからの日々、まーこは何も手につきません。
     理科の実験中に爆発騒ぎを起こして倒れたりする始末です(笑)。
     「小さいころからずーっと一緒だったのに・・・・・」と、たろちゃんが
     他の高校に行くことがショックなのでした(まーこのことを好いていると
     
いうことはどうでも良いのか?)。

     クリスマス劇の脚本のこともすっかり忘れていたまーこに、たろちゃんが
     「何でも協力するよ」というので、まーこは他のみんなの前で、
     「じゃあ他の学校に行かないで!」と泣いて頼みます。
     事情を知らない未美子たちはびっくり。
     ところが、普段は優しいたろちゃんも、このときばかりは冷たく
     「まーこは、わかってくれると思ったのに・・・な」と
     ため息をついて保健室を去ってゆくのでした。

     この様子を見て、まーことたろちゃんのただならぬ雰囲気に、
     まーこを好きなかっちゃんは焦りだします。
     そして、何と未美子も焦りだします(笑)。
     未美子は、心ひそかに、「たろちゃんとかっちゃんをくっつけたい!」と
     危ない希望を抱いていたのでした。しかも真剣に(笑)。

     確かに、この作品でのたろちゃんは、ピアノが得意でおとなしくて優しい、
     ちょっと中性的な男の子。
     話の主軸はまーことたろちゃん、かっちゃんの関係なのですが、
     読者としては、未美子のバカさ加減にも大変興味をそそられるものが
     ありました(笑)。

     さて、たろちゃんに冷たくあしらわれたまーこは頭にきて、
     「見てらっしゃい!劇がどーなっても知らないわよっ!!」と、
     涙と怒りのパワー炸裂で、とんでもない脚本を書き上げるのでした。

     出来上がった脚本は「ロミオとジュリエット」のような話らしく、
     正式タイトルは「メイン州の野辺」となっています(笑)。
     なんだかよくわかりません(爆)。

     そしてキャスティングの発表。
     まーこの復讐は、そのキャスティングによって果たされました(笑)。
     主人公のロバートには「かっちゃん」を、ヒロインのキャサリンには、
     なんと「たろちゃん」を指名するという仕返しに出たのです。
     つまり男子2人で、男女のラブロマンスを演じるというわけです。
     これにはかっちゃんは大激怒。
     未美子は大感激(笑)。

     が、女役をやらされる羽目になったたろちゃんは、嫌がるどころか、
     「まーこが考えたんだから、やるよ」と難なく受け入れ、
     意地悪してやろうと思っていたまーこは、その優しさに拍子抜け。
     結局、「野球部の予算がどーなってもいいんだな?」という生徒会長・
     細川君の脅しの一言で、かっちゃんも折れ、このキャストでいくことに
     なってしまいます。

     ここでかっちゃんは考えます。
     劇で俺がオーバーに太郎に抱きつく。→太郎が俺を突き飛ばす。→
     劇はメチャメチャ。→まーこは太郎を嫌いになる。→まーこは俺のもの。
     という単純な思考で、劇に対して一気にやる気が沸いてくるのでした。

     このあと衣装合わせの日があったりするのですが、たろちゃんが
     女物のドレスを着て、髪にはリボンをつけたりして、かなり作者さんから
     遊ばれてます(笑)。
     その姿で、まーこに「この学校での最後の行事になりそうだから、
     がんばるよ」とマジメに明るく言いつつ、
     その横には「(このカッコで言っても)いまいちキマらないな(汗」なんていう
     キャプションがあって、笑っちゃいます。
     富沢さんの初期の作品は、かなり遊び心満載です。
     それはさておき、このころにはもう、まーこはたろちゃんのことが
     気になって仕方ないのでした。

     さてさて本番当日。
     かっちゃんは予定通り、やってしまいます。
     たろちゃんにオーバーに抱きついて迫るという、脚本にはないシーンを。
     「愛しているのよロバートっ」「・・・俺も愛してる」抱きつくかっちゃん。
     観ている全校生徒たちはキャーキャー大うけ&大騒ぎ。
     特に女子の反応がいろんな意味で大きいという(笑)。

     ところが、たろちゃんは「ここで突き飛ばしたらまーこが困るっ」と
     お人よし過ぎて、突き飛ばすことができません(笑)。
     そこでますます迫るかっちゃん(心の中では「なんだ?こいつ突き飛ばさ
     ねーでやんの。マジでホモかよ?」と思っている)。

     この展開にボーゼンとするまーこ。
     気味悪がりながらも、とりあえず納得してみる生徒会長。
     感動のあまり涙する未美子。「やだーもうっ!私が何とかする前に
     あのふたりったら結ばれてたんじゃないっ!たろちゃんもカンドーのあまり
     ふるえてるわっ・・・!」←面白すぎです。

     そのまま10秒が過ぎ、どうにもできないかっちゃん&たろちゃん。
     それぞれの思惑が交差します。
     仕方がないので、とにかくたろちゃん側から突き飛ばさせないと・・・と、
     とうとう、かっちゃんはキスをしようとするのです(笑)。

     かっちゃんの心「早く突き飛ばせよ〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・」
     たろちゃんの心「げっ!ちょっと待てよおい!どぉしよ〜〜〜〜〜!!!」
     未美子の声「や、やるわよっ!もうあたし、死んでもいい!!!(嬉泣)」
     生徒会長の声「ちょ・・・ちょっとあれはやりすぎじゃないか?(オエー)」
     ドキドキワクワク♪の観客の全校生徒一同。

     ・・・・・いよいよっっっ!!!!という瞬間、とうとうかっちゃんを
     突き飛ばすのです。
     まーこが。

     まーこは、やっぱり今はもう、優しいたろちゃんが好きなのでした。
     舞台の上で、たろちゃんに泣きながら謝るまーこの姿を見て、
     まーこの気持ちを察したかっちゃんは、いさぎよく諦め、
     劇のエンディングを「キャサリン、君がレズビアンだったとは残念だ」と
     変えて、別れ話として、この劇を締めてしまうのでした。

     そんなわけで、まーこはめでたくたろちゃんと結ばれます。
     その後も変わらず4人は仲良し。
     まーこは「私もたろちゃんと同じ高校受けようかなー」と思い、
     かっちゃんは「俺も本格的に野球がやれる高校いこうかなー」と思い、
     未美子は「つまんないから女子高いこうかなー」と思い始めるところで
     ジ・エンド。


     これ、すごく短い話なんですけど(まぁ富沢さんの話は短編が多いん
     ですけど)、面白さが凝縮されてるんですよね。
     それまでの漫画家さんに比べると、内容的には深みがないというか、
     かなりお気楽な感じなんですが、読者の私が当事者じゃなくて、
     例えば生徒会長の細川君とか、観客の生徒達だったら・・・と思うと、
     すごく面白い学園物語だな〜、と思いながら当時は読みました。
     ハタから見た面白さ、というのでしょうか。
     感情移入とは違う、単純に読んでて面白い、そんな感じです。

     このころの他の新人漫画家さんが、同じような絵柄ながらも
     ストーリーは妙に練りこんでいたのに比べると、登場人物たちの
     気持ちを丁寧に描いているわけでもないし、4コママンガみたいな
     起承転結です。
     でも、コロコロ変わる細かいエピソードやギャグ、ちょっと脱線していく
     話の展開、わかりやすいんだけど、なんだかクセのあるストーリー。
     
不思議な魅力がある作家さんでした。私にとっては。

     絵柄も、たろちゃんなんかはホントにクラスにこんなちょっとナヨッとした
     男子っていたな〜〜〜、という感じです。
     今で言うと草食系男子っていうんでしょうか?
     でも女子にとっては、クラスにこんな男子がいたら、ちょっと友達になって
     みたいな、話しやすそうだな、なんて、気になる存在になりそうです。

     もちろん、こんな男子ばかりが気になるわけではなくて、みんな、
     中学時代、高校時代に、とりたててカッコいいわけじゃないけど、
     なんだか魅力があって、一部の女子の間で隠れた人気のある男子・・・
     そんな子がいたと思うんです。体育会系でも、文科系でも。
     富沢さんが初期に描いていた男の子達には、そんなキャラクターが
     何人も登場していました。
     それまでの少女マンガなら脇役に回される地味な男子キャラクターに、
     スポットが当てられたりするんです。
     そういうさりげない男の子を描くのがうまかったんでしょうね。

     『とらいあんぐるクリスマス』以外にも好きな作品がいくつかありまして、
     『雨あがり声がわり』なんかは、テーマとしてはすごく珍しいなぁと、
     当時「なかよしデラックス」で読んだときはかなり印象的でした。
     「1986年冬の号」掲載なので、「とらいあんぐる・・・」の次の作品かな?
     単行本では『おじょうさまカンパニー』に収録されています。
     (梅雨時のテーマの話で、私もそんな時期に読んだような記憶があった
     のですけど、「冬の号」・・・。そうだったかなぁ???)

     『雨あがり声がわり』は、タイトルの通り、声変わりが関係している
     お話です。
     高校に入学して初めてのクラスのHRで、自己紹介をしたときに、
     一人だけ、まだ声変わりをしていなかった男子・川内くん。
     「あたし・・・ぜったい冗談だと思ってた・・・。
     高1にもなって、声変わりしてない男の子がいるなんて・・・!」
     主人公の泰子(やっこ)は、たちまち彼のことを気に入ってしまい、
     男子の図書委員に選ばれた川内くんを見て、一緒に仕事をしたいが
     ために、自ら立候補し、女子の図書委員になります。
     (声変わりをしていない男子だから気になってしまう。この設定も、
     面白いけど何となくわかるんですよね〜。私だけ?^^;)
     必死で仲良くしようとするやっこに、つれない川内くんは、声を出したく
     ないために、仕方なく筆談でやっこと会話をし始めます(笑)。
     女子が話しかけても口を利かず、とにかくつっけんどんなため、
     皆からもツレないと思われていた川内くんでしたが、図書委員の仕事の
     あと、やっこの家まで送ってくれたりと、本当は優しい男子なのでした。
     そしてやっと、声を出してやっこと会話をしてくれるようになります。
     自分にだけ心を開いてくれていると感じるやっこは、どんどん川内くんを
     好きになっていきますが、そうこうするうちに生徒会長選挙が近づき、
     1年生にもかかわらず「うちのクラスからも立候補を!」と張り切る
     男子の一声で、ジャンケンで、なんと川内くんが立候補することになって
     しまいます。
     それから選挙活動が始まり、一緒に図書委員の仕事ができなくなって
     しまったやっこ。川内くんも何故か口を利いてくれなくなってしまいました。
     一度、遅くまで図書委員の仕事をしていたやっこを手伝いに川内くんが
     きてくれて、思わず「これからも一緒に委員をやっていきたい!」と
     告白めいたことを言ってしまうやっこ。
     でも彼は笑って「また明日」とだけ紙に書いて、去ってしまうのでした。
     川内くんの選挙のキャッチフレーズは「天使の声を持つ男」(笑)。
     全校生徒が、彼の声のうわさに興味シンシンです。
     そしていざ最後の選挙演説の日。
     川内くんが「天使の声」で演説を始めると・・・・・?
     そうです。彼は、この数日間で、声変わりしてしまっていたのです。
     出てきた声は、普通の低い声。
     やっこと口を利いてくれなかったのは、声変わり中だったからなのでした。
     「普通の声じゃねーかよー!」とブーイングの嵐&どよめく全校生徒を
     尻目に、「声変わりおめでとう!」と声をかけてあげるやっこに、
     なぜか同調して喜んであげる全校生徒たち(笑)。
     結果は白紙の票ばかりで再選挙。なんだそりゃ?
     このあとどうなったかはわかりませんが、とりあえずはまた一緒に
     図書委員ができそうな感じで、ふたりの話は終わります。

     これも久しぶりに読み返しましたが、やっぱり面白い〜♪です。
     ところどころに出てくる個性豊かなキャラクターがいいスパイスに
     なっています(特にライバル立候補者のメガネ男子くん)。
     短編だけれど、いろんなエピソードが詰め込まれてるんですよね。
     ここには書ききれないほど細かいエピや、ギャグ(?)も満載です。
     あと、富沢さんの作品は「全校生徒」が最終的に出てくる話が多いことに
     今回気づきました(笑)。

     他にも好きな作品『第2ボタンと白いチョコ(これが「なかよし」の本誌
     初登場ではなかったかな?)』『ロマンスもっと!』『マイフレンドは下級生』
     『秋風にバトンタッチ』があるんですが、
     どれも最終的には全校生徒とか、クラスの全生徒たちが大騒ぎ、
     みたいな展開です。

     今回、富沢さんの作品で好きなものとしてあげた6編は、どれも
     ホントに初期のもので、主人公の女の子のキャラがみんなサバサバ
     した性格なのが好きです。
     特に『第2ボタンと白いチョコ』の美江子ちゃんは賢くて、変に冷めてて、
     好きです(笑)。
     勉強は出来るけどそのぶんクールな女の子が、軽くて単純で明るい
     男子と、どんなノリで接したらいいのか瞬間瞬間でマジに悩む、
     というのがよく現れてます。
     クラスの生徒達も、国立高校志望の美江子が不合格だったと知ったとき
     の態度と、すべり止めの高校すら落ちてしまった男子・原くんへの
     態度とが、まったく違うのが面白いです。
     朝の教室で、「美江子、国立2次、落ちたんだって〜!これで国立組、
     
全滅かぁ。学級委員やってる時間、勉強に費やさせれば良かった」と
     シンミリ&勝手に責任転嫁&グチる生徒達。
     それを扉の外で聞いていて、いつ入ったらいいのか悩む冷めた美江子。
     その様子を見て、クラスメイトに腹を立ててガラッ!と扉を開ける原くん。
     「館石はよくやったよ!俺達の誰が責められるんだ!」とひとり熱く熱く
     青春している原くんに、「あ、原くんおはよー。落ちたんだって〜〜?^^」と
     本気の笑顔で迎えるクラスのみなさん(笑)。
     こういう扱いかたをされる男子っていたよねぇ、と、この作品でも
     やっぱり思わされます。

     けっこう中学や高校時代って、本人は一生懸命だけど、周りは軽い、
     そんなシチュエーションって多かったような気がします。
     『第2ボタンと白いチョコ』も、美江子や原くんは、それぞれ個性は
     真逆だけど、本人的にはいつも真剣で、でもその様子はハタから見ると
     空回りしていて滑稽なんです。
     そして前にも書いているように、読者は、感情移入というよりも、
     このクラスの仲間達のような第3者として、キャラクター達の様子を
     軽〜く受け流しながら読み進む、そんな作品です。

     さて、富沢さんの単行本を5冊も持っていながら、そろそろ「なかよし」
     卒業ね、なんて冷めていた時期だったので、富沢さんについて
     ファンとして色々調べたり、なんてことはありませんでした(苦笑)。
     ただ、漫画家のほかに、兼業でOLさんをなさっていたのは覚えています。
     吉祥寺周辺のご出身だったような気もしますが、違ったらスミマセン
     (苦笑)。
     あと、ご自身の自画像を描くときに、メガネで長髪(当時のOLさん
     だから、ストレートヘアに、ちょっと耳から上あたりにレイヤードを入れて
     流した感じかな?と思うのですが)の姿を描いていたのを覚えています。
     最初のころはもっと短いヘアスタイルだったかも?

     いま思えば、ファンレターとか書いておけばよかったなぁ・・・なんて
     思います。楽しいお返事をいただけたかもしれませんよね。

     とにかく、同時期(昭和60年ごろ)にデビューなさったかたで、
     私が単行本まで買った人は富沢さんだけなのです。
     それ以降、「なかよし」の作家さんは彼女達の世代にすっかり移り
     変わって、「セーラームーン」の時代になっていったようですが、
     セーラームーンが「なかよし」掲載なのも後々まで知らなかったし、
     武内直子さんの作品だというのもずいぶんあとで知りました(笑)。
     というか、そもそもアニメすら一度も見たことがないんですけど(苦笑)。
     すみません。あはは。
     あ、武内直子さんのデビュー作が載っている「なかよしデラックス」、
     実はまだ部屋にとってあるんです(笑)。たまたまですが。
     あのデビュー作のイメージがあったので(内容的にはあさぎり夕さんの
     系統で、めちゃめちゃ女の子〜な、ネチョネチョ&イジイジした性格の
     ヒロインの子の話です(笑))、まさかセーラームーンなんて描くとは!と、
     ちょっと驚いたのを覚えています。

     富沢さんはいま、どうなさっているんでしょうか。
     イメージ的には普通にご家庭に入られたのかな?と思うんですけど・・・。
     『雨あがり声がわり』や『第2ボタン・・・』のころは、次はどんな作品なんだ
     ろうと、本当に楽しみだったものです。
     富沢さんの作品が載ったときだけ「なかデラ」を買っていたような気が
     します。あぁ、もっと読みたかった・・・。
     あのゴーギャンのような描線&不思議な起承転結のマンガを描かれて
     いた時代に、もっとたくさん作品を発表していただきたかったなぁ・・・と、
     本気で恋しがる私だったりして・・・・。